《中国では今、中国式のルネサンスが巻き起されている》

TOKYO--()--近頃、中国江蘇省蘇州市太湖あたりで真珠の商売をしている陳さんの身の回りに不思議なことが起こっている。それは、従来の顧客の年齢層は中年女性が中心だったのが、近頃は大勢の若い女性が連ねるように真珠を買いに来るようになったことである。きめ細かく、輝きのある太湖真珠は、かねてより名だたる真珠産地として知られている太湖で生産されており、かつては皇室の貢納物でもあった。

しかし、女の子たちはなぜ故に珍しく真珠を買いに来たのだろうか。どうやら、真珠を買いに来た女の子たちは、近くの大学のサークル活動で宋の時代の「真珠メイク」の存在を知り、図書館でありとあらゆる文献を調べた後、実際に真珠メイクを再現することに至ったようだ。

王珏(仮名)のように、宋のメイクを実際に体験したがる人間はそれほどいないが、インタビューを進めるうちに、彼女のように宋の文化に夢中になっている若者はかなり多いことが分かった。中国では、現在新しい文化運動が巻き起こされており、「95後(1995年以降に生まれた若者たち)」は宋代の文化を称賛し、憧れ、未だかつてない勢いでのめりこんでいる。

 このような大規模なボトムアップ式の民族称賛は、『我在故宫修文物(日本語訳:私は故宮で文化財を修復する)』や、『国宝档案』等の中国国営放送局のテレビ番組で激励された後、いわゆる「古風愛好者」の範疇を飛び超え、若者の間でブームを巻き起こされ、社会現象となった。中国式の「ルネサンス」は、まさに今始まりつつある。

 今年の始まり頃に、北宋時代を舞台にしたドラマ『知否知否応是緑肥紅痩』が中国のSNSでトレンド入りした。中国版ツイッター(ウェイボー)のみでも8393.5万人が話題に参加し、特に宋の優雅な生活が当時最も注目された。当該ドラマの関連グッズである漢服は通販サイトで売り切れ続出となり、わずか3週間で100万着を突破した。宋の服装、家具、アクセサリーのデザインは優雅で細部にこだわり、若者の間で大人気となり、売れ行きが上々であった。

 ドラマだけでなく、宋を舞台にしたゲーム『逆水寒』も同ドラマの人気に伴い、ヒットした。このゲームは宋の時代背景を忠実に再現し、若者に最も愛される宋文化のメディアコンテンツとなった。今までは古書や絵画等を通して宋の文化の一角をうかがうことができたとしても、体験することはできなかった。ところで、テクノロジーの発展に伴い、今の時代では、ゲームを通じて伝統文化の中で生活する人物になりきって体験することができるようになった。ゲームの中で直観的にその時代を経験するほど爽快なことはないだろう。

『逆水寒』では、最もリアルな北宋の旧正月を体験することができる。例えば、未明に宮殿の前を通ると、役人が列をなして宮殿の中に入り、元旦の朝会に参列する風景を目の当たりにすることができ、さらに汴京の街中を歩くと、爆竹の音や打楽器、吹奏楽器の音が響き渡り、新年の挨拶を交わす通行人を見ることができる。

 さらに、『逆水寒』のなかで、考古に夢中になり、ゲームの中で宋詞、宋画、書道、茶道を研究する人も続出したようだ。情報技術の急激な発展により、現代の若者は様々なルーツを通して自分が興味を持つことにアクセスすることができるようになった。これは我々の親世代が若い時には想像もつかないことだった。

 宋は「現代中国への道を切り開いた時代」と言われており、中国の識者は「華夏民族の文化は数千年もの進化を遂げ、趙宋の時代で頂点を極めた。その後衰弱したが、必ず復興の機は訪れる。」と評価している。宋の時代は中国の中産階級とインテリが最も暮らしやすかった時代であり、政治的には展望があり、文化的には創造力があり、道徳的には向上心があり、生活が保障されている社会であった。哲学・倫理・教育・科学・文学・芸術・医学・工芸、どの分野においても華々しい成果を残しており、宋の時代は中国の伝統文化の最高峰といっても過言ではないだろう。

 中国の若者の歴史観は、かつて流行っていた清の時代ドラマの認識の枠を超え、宋の優雅な文化に注目し始めている。伝統衣装を身にまとうこと、宋の歴史を知ること、宋詞を嗜むことなど、以前は時代遅れだと思われていたことが、今の若者の間ではブームとなっている。伝統文化は様々な変化を遂げて現代人に受け入れられ、新しい生命力を解き放っている。

 このような変化は、イタリアのルネサンスを連想させる。数百年前、フィレンツェの人々はまさに古代ギリシアやローマの文化を復興することで、自身の文化的主張をアピールした。ルネサンスはヨーロッパの中産階級において思想解放運動を行い、西ヨーロッパ各国が世界を支配できるに値する富と文化の力を得、やがて400年に渡る世界への支配につながった。

 一方、私達は今、同じような歩幅で独自の「ルネサンス」の道を歩んでいる。これは中国の文化の転機であり、東アジアにおける文化交流の新しい方向性を示すものでもある。文化が栄えていた宋の時代が、今や絶大な実力を持つ現代の中国とぶつかり合う時、中国式の「ルネサンス」は知らぬ間に私達の生活スタイル変えている。

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